1958年台湾海峡上空で大規模な戦闘が発生しました。
中国側はMiG-15とMiG-17を合計100機台湾側はF-86Fセイバーを合計32機投入した非常に大規模な空戦でした。(一度に空戦をしたわけではありません
運動性能では中国側が勝っていましたが台湾側は機関銃のみの中国側に対しF-86Fの一部の機はAIM-9Bを装備していました。
当時のAIM-9は後方からしかロックオンできない物でしたが機銃しかない戦闘の中では強力な装備でした。
―結果 この空中戦で台湾側は一機被撃墜一機大破損傷
対して中国側は11機の被撃墜でした。
現在ではその数値は過剰ではないかといわれていますが、どちらにしてもこの戦闘はミサイルの将来性をゆるぎないものにし、以後アメリカは格闘戦闘機から遠のきミサイルキャリアーを多数生産することになります。
ベトナム戦争時アメリカは"政治的理由"により目視外射程での戦闘を禁じていました。
これによってアメリカは目視外射程からのAIM-7の発射という最大のアドバンテージを封じられ、機動性の悪いAIM-7を近距離で発射するしかないという状況に追い込まれており、本来想定されている状況以外で撃っていたため命中はあまり期待できませんでした。AIM-9は装備しているのですが後方からしかロックオンできないため完全にドッグファイト用でした。
さらに空軍はミサイル戦闘にのみ重点を置きドッグファイトをまったくといっていいほど重視していませんでした。
よってドッグファイトになると小型で軽快な動きをするMiG-21に落とされていきました。
これを打開するために空軍は海軍からF-4を導入、ガンポッドを装備し、目視内戦闘の訓練を行いました。(F-4はE型から機銃を装備
F-4はやはりミサイルキャリアーでしたが強力なエンジンを装備していたためエネルギーを生かした戦い方でMiG-21を落とせるようになりました。
これだけ書いているとアメリカは苦戦したように思えますが1970年代になってからは目視外射程での戦闘の禁止は解除され、AIM-7による目視外射程からの発射でMiG-21を完全に圧倒していました。
"予想外に"苦戦したというレベルだと思われます。
1958年、アメリカの空軍・海軍・海兵隊の三軍共通の戦闘機を作るという計画が持ち上がっていました(TFX計画)。現在のF-111です。
しかし、このような計画にありがちなように要求はどんどん肥大化し、その結果戦闘機としては低すぎる加速性能、上昇力、最高速度、そして戦闘機としては大きすぎるその機体は戦闘機としての失敗を意味していました。
この計画の失敗はかなり早期からわかっていて、海軍は計画から脱退。海軍はVFX計画に移っています。
結局採用したのは空軍のみで、しかもF-111は本来の戦闘機としての任務ではなくその巨体を活かした爆撃機として大成します。F-111 "アードバーグ"
1966年F-111に変わる制空戦闘機の開発が急がれていました。というのもソ連がXB-70の迎撃のため(と思われていた。現在はA-12との見方が有力)の新型戦闘機Ye-266(のちにMiG-25と判明)に対抗できる運動性能を持っている戦闘機がアメリカにはないとされ、その対抗のための戦闘機を作ることが急務となっていました。
余談ですが1976年に起こったベレンコ中尉亡命事件によって手に入れたMiG-25を徹底的に調査したところたいしたことはなかったということが判明しています。MiG-25は百里に運ばれ、調べつくされた後ソ連に返還されました。
XB-70 "ヴァルキリー"
写真はSR-71
話を元に戻し、F-111に変わるFXの要求は次のようなものでした。
・F-111よりも軽い27トン級可変翼戦闘機
・F-111よりもよい加速性能、上昇性能などの飛行性能
・中距離空対空ミサイルを装備可能
・爆弾を搭載可能で航空支援も可能
しかしこれらの案を検討した結果F-111を細身にしただけのものという結論が下され、そして案は白紙に戻されました。
結論から言ってしまえば1960年代にはミサイルが万能という考えは早すぎました。打ちっぱなし能力のない中距離射程ミサイルやオールアスペクト能力のないAIM-9等ミサイルの技術はまだまだ未熟でした。そして、"政治的事情"などにより有効な使用方法を制限されることもあり、本来の有効な戦い方ができるとは限りませんでした。(これは現在でも同じですが
まだミサイルキャリアーが一般的な考えだった時代、国防総省内にも格闘戦闘機を提案するグループはいました。しかし、そのグループは少数でなおかつ米軍の考え方に真っ向から反対していたため日の目を見ることはありませんでした。だが、そのグループは活動を続け、そしてその密かに活動を続ける姿からまわりから戦闘機マフィアと呼ばれていました。
1960年代後半になるとミサイルキャリアーの考え方が崩れ始めました。
1968年、ついに戦闘機マフィアの一人であるジョン・ボイド(John Boid)少佐はFXの監査をする命令が降ります。
ボイド少佐は27トン級可変翼万能戦闘機から18トン級戦闘機の格闘戦を重視した空対空専用の機体の構想を打ち出します。
ボイド少佐は軽量化するために無駄を切り捨て始めました。まず最初に切られた無駄は当時世界で流行していた可変翼でした。
可変翼は構造上主翼が大きくできず急旋回を行うために必要な低い翼面過重にすることができず、翼を動かす機構が重量の増加にもつながっていました。そのために可変翼を切り捨て固定翼にすることが決定されました。
そして速度性能を犠牲にして涙滴型キャノピーを採用しました。これは先に見つけたほうが有利になる空戦の理論のためであり、速度性能を犠牲にしてでも良好な視界を得ることが優先だと考えられたためです。
そうして出来上がったのがF-15です。
F-15 "イーグル"
F-15は最高傑作といえるほどすばらしい戦闘機でした。発展性を残した大型の機体、進んだアヴィオニクス、大きな主翼と強力なエンジンによる良好な機動性、そして群を抜いている兵器搭載能力。どれをとっても一級品であり、30年以上前に開発された期待であるにもかかわらずその発展性をいかんなく発揮し、後発である国際共同開発のTyphoon、ロシアのSu-27、フランスのラファール等にもまったく劣らない能力を発揮しています。 そしてF-15Eという対地攻撃型をも生み出しました。
F-15E "ストライクイーグル"
まさに最高傑作と呼ぶにふさわしいF-15にも欠点がありました。それは値段です。
全体の25%以上にチタンを使うという贅沢な仕様によって価格は高騰し、アメリカでさえF-4の機種更新を行うことができませんでした。
その結果退役が近づくF-4に代替する戦闘機の開発が急務となりました。
ACF計画の発足です。
実はACF計画の前身となるLWF計画は1969年からありました(F-15の初飛行は1972年)。しかし、当初の計画では軽量戦闘機の研究のための計画であり採用はしないことが前提でした。
1971年、ゼネラルダイナミクス社のYF-16案とノースロップのYF-17案が応募され、研究が行われるはずでした。
ですがF-15の価格の高騰により完全な機種更新が行えなくなるとYF-16とYF-17の2つで検討が行われました。
1973年12月13日、プロトタイプであるYF-16がフォートワースでロールアウトされました。
1974年1月8日完成したYF-16はC-5A輸送機によってエドワーズ空軍基地に空輸され、同月21日には初飛行が行われる予定でした。
YF-16A
しかし、このYF-16にはクレームがつきます。YF-16のエンジニアだったジョン・G・ウィリアムによると、
高速タクシーテスト中、パイロットが左右に機体を何度か振動させたところ猛烈に振動し、その振動のスピードは120ktにも達したといいます。
この事故の結果、初飛行は改良されたスタビライザーを装備するまで延期されます。
そして同年2月2日にスタビライザーを付け替えたYF-16で初飛行が行われました。この日、YF-16は高度3万フィート、最高速度400マイルを記録しました。
YF-16 2号機は同年3月9日に初飛行を行いました。実はこのフライトはかなり急がれていました。その理由はF-16に搭載する予定のF100エンジンが1号機で飛行中、指令なしでアイドル状態になったためです。
このテストフライトでエンジン停止着陸を無事成功させた後、YF-16には問題を解決するまで一時的な飛行制限が課せられました。
その飛行制限の間に徹底的に検査され原因を調べることになります。調査の結果エンジン停止の原因は燃料バルブにあることがわかりました。燃料バルブが汚れることによってバルブがアイドル位置で止まったのでした。
そしてその問題を抱えている間、このYF-16はエンジンが停止した状態での着陸をする必要がありました。
ノースロップ案のYF-17とゼネラルダイナミクス案のYF-16はテスト飛行が始まるとすぐに性能比較が始まっています。
2機のYF-16は最高速度マッハ2.0最高到達高度は60000フィート以上に達し、9Gでの機動が可能でした。
しかし、実際にはF-16は燃料をフルに搭載した状態での6.5Gの機動を行うように設計されており、9Gの機動は危険でない速度と高度でなおかつ燃料が減った状態でのみ9Gの機動が可能でした。
9Gの旋回性能とは空戦性能においてYF-17と差をつけるための一種のデモンストレーションだとされています。
さまざまな検討の結果F-16のほうが空戦性能において優れていると判断されたためF-16が採用されることとなりました。
そして、ACF計画は現在のアメリカ空軍の主流となり、確固たる地位を確立しています。
なお、競争に敗れたYF-17はアメリカ海軍に採用されF/A-18として世界各国で採用されています。
F-16は世界で軍用機としては初めてフライバイワイヤ方式を取り入れています。フライバイワイヤとは操縦棹などによる入力をそのまま油圧などで舵を効かせるのではなく、一度電気信号へ変換し、それをアクチュエータなどに伝えて舵を聞かせるというものです。その最大のメリットは電気信号へ変換することによってコンピュータを通し最適な圧力など、さまざまな補正をかけてから出力するため機体の安定性、操縦性を向上させることができます。
このデジタルフライバイワイヤによって、機体を負の安定性で設計しても安定して飛行することが可能になり、機体に負の安定性を持たせることによって非常に速い機動をすることを実現しています。
また、F-16では操縦桿の位置が両足の間ではなく、操縦者の右側へと移動しています。操縦桿は遊びが数mmしかなく、そこにかけられた圧力を感知し、舵を効かせています。
エアインテークは楕円形であり、かなり特徴的な形をしています。このエアインテークにはショックコーンやランプなど超音速飛行をするときの効率を上げるものが一切なくとても単純な形をしています。
これは超音速域での戦闘はほぼありえないとした考え方を基にしているためであり、遷音速域での効率を重視している設計のため超音速では逆に効率が低下しています。
その結果、軽量な機体にF-15と同じエンジンを採用するというきわめて高い推力重量比(1を超える)を持っているにもかかわらず、最高速はマッハ2となっています。
しかし、最高速の低下は超音速機といえども超音速を出すことはあまりないとする考え方に基づいたもので、この考え方はF/A-18も同じです。
F-16は本来軽量の制空戦闘機として生み出されたが高い対地攻撃能力を持ち、現在のマルチロール機の先駆け的存在となっています。
F-16A/B | F-16C/D | F-16E/F | |
全高 | 5.1m | ||
全長 | 15m | ||
全幅 | 9.5m | ||
乗員 | A:1名 B:2名 | C:1名 D:2名 | E:1名 F:2名 |
主翼面積 | 27.87平方 | ||
自重(Kg): 空荷/ 通常積載重量(空対空)/ 最大離陸重量 | 7386.75/ 11467.26/ 17009.71 | 8272.61/ 12003.41/ 19186.95 | 9979.03/ 13154.17/ 20865.24 |
航続距離 | 3862.42km | 3942.89km | 3942.89km |
作戦行動半径 | 480km | 579.36km | 579.36km |
エンジン | Block1/5/10/15:F100-PW-200 Block15OCU/20:F100-PW-220 | Block25:F100-PW-200 *1 Block30/40:F110-GE-100 Block32/42:F100-PW-220 Block50/52:F110-GE-129/F100-PW-229 | F110-GE-132 |
CFT | 無し | あり(1383.45Kg) | |
最高速度(Mach) | 2.05 | Block25/30/32/40/42:2.02 Block50/52:2.05 | 2.02 |
ユニットコスト(millionUS$) | 14.6 | 18.8 | 26.9 |
*1:全機F100-PW-220にアップグレード済み
F-16A/B | F-16C/D | F-16E/F | |
機銃 | M61A1 一部のBlock10:GPU-5A | M61A1 Block50/52:弾薬がPGU-28B | |
対空兵装 | 基本装備:AIM-9? *1 Block15:AIM-7 Block15OCU/20:AIM-120 | 基本装備:AIM-9/-7/-120 Block60:ASRAAM | |
対地兵装 | 基本装備:Mk82/84? *1 Block15OCU:AGM-65/AGM-119 Block20:AGM-45/-88/ AGM-65 AGM-84/-119 | 基本装備:Mk82/84 AGM-65 AGM-88 Block30/32:AGM-45/ Block40/42:GBU-10/-12/-24 Block50(D)/52(D):AGM-84 AGM-154"JSOW" JDAM Block60:AGM-154"JSOW" AGM-84E"SLAM" |
*0:表の見方:基本装備にブロックごとの兵装が追加されている形になっている。
複数個ある場合、使用目的が同じものはアルファベットを省略している(例)AIM-7/-9/120
アルファベットが同じでも使用目的が違う場合は変えている(例)AGM-45/-88 AGM-154